科学者の良心2005年07月25日 07:32

 7月19日付け朝・毎・読・東京の4紙に載った合衆国食肉輸出連盟の全ページ広告は、国際獣疫事務局(OIE・本部パリ)名誉顧問の小澤義博氏と、司会業の酒井ゆきえ氏の「対談」の形をとっている。広告主は背後にいて、言いたいことを第三者に代弁させるやり方だ。
 小澤氏は1931年の生まれ。東大農学部からフルブライト留学で米国に渡り、コロラド大を経てミシガン大学で農学博士号を取ったという。その後、旧国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)に務め、国連食糧農業機構(FAO)に転じ、88年にOIEに迎えられ、92年にOIEのアジア太平洋事務所が東京に開設されるとともに同所代表、その後、現職に就いた。
 1960年代初めから30数年を、ほとんど外地で過ごしたせいか、日本では著作も見当たらず、知る人も少ない。だが、BSE騒ぎ以降は学会などでの講演も多い。今回、接触を試みたが海外出張中だった。
 対する酒井氏は、1954年生まれ。75年フジテレビに入社、子ども番組「ママと遊ぼうピンポンパン」のお姉さん役を約4年務めた後、独立。現在は企業プロモーションの司会などを業としており、"ヨイショ"はお家芸だ。
 小澤氏の2001年、02年、04年の日本獣医学会での講演記録を読んでみると、今回広告の「OIEが定義した特定危険部位を除いた牛肉は、日本でも、米国でも、ヨーロッパでも、同じように安全」という主張とは違って、危険部位除去の技術的困難さ、解体で汚染した鋸やナイフの消毒の難しさ、関与する人間のモラルの問題などを、はっきり指摘している。
 広告は、不利な情報を決して表に出さない。だから、科学者が良心に基づいて科学的真実を語っても、広告主に厄介な部分は削られ、広告を見る者には伝わらない。この広告で安全の根拠とした「OIEの基準」も、同事務局が、米国の強い影響下にあるFAOやWTO(世界貿易機構)と緊密な関係にあるために、疑問視する専門家がかなり多い。小澤氏自身が、身近な人間には「日本の牛肉は怖くて食べられぬ」と言っているそうだ。その辺が、「科学者の良心」なのだろう。(;)

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