外国語の数詞2005年08月24日 08:21

 政治家の独善は、しばしば滑稽な事件をひき起こす。──直近の好例は、石原慎太郎都知事の「フランス語侮蔑発言」をきっかけに展開したコメディーだ。都知事の軽口にムキになったフランス語教師や、フランス語を教えている語学校の経営者など約20人が、7月13日、東京地裁に損害賠償と謝罪広告を求めて石原氏を提訴する騒ぎになった。
 慮外なことに、発端は2004年秋に遡る。都知事のご執心で、既存の4つの都立大学を統廃合し、2005年4月から「首都大学東京」が発足したことは周知のことだが、統廃合に当たっては、当事者間に賛否交々の動きがあった。
 その中で、フランス語やフランス文学を専攻する学者に統廃合反対の者が多く、説得に手こずったようだ。もともと、「Moi, non!=ムワ ノン=私はいやだ」と、はっきり表明するのを評価するのがフランス気質である。権力主導のヤミクモな算盤本位の大学統廃合に盛られた、フランス語・仏文部門の縮小案が気に入らなかったのは、わかる気がする。
 そんなこともあって、04年10月19日、都庁内で開かれた首都大学東京の実現を支援する会員制クラブ「the Tokyo U-club」の設立総会での挨拶で、問題の発言が、知事の口を衝いて出た。──「フランス語は数を勘定できないから、国際語として失格しているのも、むべなるかな。そういうものにしがみついている手合いが、反対のための反対をしている。笑止千万!」
 先生方が、提訴まで半年以上も評定に費やしたのもコミカルだが、石原氏が会見で「例えば……」と、フランス語では「91」を「4つの20と11=quatre-vingt-onze=カトルヴァントンズ」と表すことを挙げたのこそお笑いだ。それが、統一への協調を求めつつ固有性を尊ぶフランス流だ。つい1971年まで、英1ポンドは20シリング、1シリングは12ペニーだった。1ヤードは、今も3フィート。そして、メートル法の先駆者はフランスだ。もし、英国人が同じ難癖をつけられたら、賠償に加えて「英語学校での1年間のお勉強」を請求して、ユーモアが得意な国民性を示したかも知れぬ。(;)