民放を見直せ2006年01月12日 08:24

 去年の暮れから、「NHK民営化論」がメディアを賑わすようになった。"何でもかんでも民営化"論者の竹中総務相や小泉首相にしてみれば、郵政の次は、さまざまな法令や既得権によって、自由な資本参入がままならぬマス・メディアの"改革"が、既定のシナリオでもあろう。
 ただ、竹中総務相が「日本になぜタイム・ワーナーのような巨大メディア企業がないのか、理解できぬ」と発言したとの報道(05年12月7日・朝日朝刊)が本当なら、民主社会におけるマス・メディアの使命と、その使命が故の、規模を含めた「企業としてのあり方」についての不見識に驚くとともに、こんな人物にマス・メディアを普通の事業のように"自由化"される恐怖に慄然とする。
 NHKの民営化とは、株式会社化のことであろう。ならば、すでに株式会社である民放テレビ局の現状をどう見るのか。政界から、民放番組の「放送内容」についての、見直し論議が起きないのが不思議だ。
 この正月、NHK総合テレビは、7日の夜9時から2時間、8日も9時から1時間25分を割いて「NHKスペシャル・日本のがん医療を問う」を放映した。厚労省の役人、医療現場の医師、癌患者、患者の家族が、「国民医療最大の問題」である癌との闘いを論じ合い、今や癌との闘いが、癌そのものの克服より、癌がもたらす精神的・肉体的苦痛からの解放「緩和ケア」であることを視聴者に気付かせて行く、非常に有益な番組だった。
 こんな番組が、民放に出来るか。絶対、無理だと思う。日ごろ、CMを見せる合間にニュースを挟み、報道番組ですら視聴率稼ぎのオチャラケや人気タレントの戯言混じりで過ごしている民放が、これと同じ番組を流したところで、視聴者は医療機器メーカーか製薬会社の宣伝と錯覚するだけだ。何より、大広告主である製薬業界や医療産業の批判など、金輪際できまい。
 もし、株式会社化されたNHKが、株主の顔色を窺い、部分的であれ、収益を企業のCMに頼るようになったら、日本から公正な「報道番組」が消えること請け合いだ。NHKの民営化を口にする前に、公共財である電波を使って、愚劣極まる番組をたれ流し、利益を貪る民放をこそ見直すべき時だ。(;)