母親の温もり2006年01月24日 08:01

 堅い話もいいが、もっと猫のことを書け、というご注文のメイルにお応えして、猫話の"お代わり"。
 チビは、家に来る前、よほど怖い思いをしたのか、カラスや黒い色の布に怯える。戸外が嫌いで、庭先より遠くには出掛けたことがない。お陰で悪い病気を拾うこともなく、まだ異性も知らない。まれに、ふてぶてしげなオス猫が家の廻りをうろつくことがあるが、敵とみなして背中の毛を逆立て、窓越しに奇声を投げて追い払う。
 ほぼ2ヵ月置きの満月に合わせ、定期的に発情するが、主を「背の君」と思っているらしく、この期間中の夜だけは、いつもの家内の布団ではなく、主の書斎の毛布の上で過ごす。狂乱期には、仕事中の主の肩にいきなり飛び乗ってきて嬌声を発し、身の置き所のなさを訴える。
 こんな時、抱いてやると身を固くして震わせ、潤んだ目でじっと見上げるが、あいにく何もしてやれないのが不憫だ。
 だが、種は違っても何かフェロモンのようなもので、主に「オス」を感じていることは間違いない。満月・大潮と重なる狂乱期をすぎると、「過ぐる10日は仮の姿でした」と言わんばかりに、ケロっと主にはよそよそしくなり、夜も家内の布団に戻る典型的な「メス」を演ずる。
 立ち居振る舞いのしとやかな猫で、じゃれていても、甘噛みするだけで、決してひどく引っ掻くこともない。このところのように日中も寒いと、書斎の板戸を廊下からカサカサと遠慮がちに掻いて来訪を知らせる。入れてやると、主の電気膝掛けに潜り込んでくる。
 こんな時、両の前肢を交互に伸ばし、膝掛けの毛布をゆっくりと揉む。時には、毛布の端をシポシポ吸い始める。主は、感電でもしてはと心配するのだが、毛布のジワーっとした温みに母親の記憶をたぐってでもいるのだろうか。揉む動作は、乳をせがむ仕草のようだ。
 息子らが独立して世帯を持ち、老夫婦だけになったわが家で、チビは文字通り家族の一員である。人は、幾つになっても「愛する」ことを欲する。その欲求は「愛される」ことより強いようだ。(;)