科学者の勇気2006年02月02日 08:05

 1月29日付のニューヨーク・タイムズが、怖いニュースを伝えた。NASA(米航空宇宙局)のゴダード宇宙研究所で長いこと所長を勤めている著名な気象学者、ジェームス・E・ハンセン=James E.Hansen=博士(63)が、「地球温暖化の原因になっている二酸化炭素など温室効果ガスの排出量を速やかに減らすべきだ」と、昨年12月初めに学会の講演で訴えて以来、ブッシュ政権の意を汲んだNASAの公務外活動管理官から、発言封じ込めの圧力を受けている、というのだ。
 同博士は、1967年にNASAに入り、ゴダード研究所でコンピューターによる地球気象の模擬実験と取り組んできた。1988年からは、二酸化炭素などの長期的な温室効果による地球温暖化に警告を発し続けている。2001年には、チェイニー副大統領に2度呼ばれ、気象変動について進講もしている。
 当時、大統領府の高官は、大気中の微粒炭素浮遊物質の除去が、二酸化炭素の排出規制より遙かに容易で温室効果抑制に効果があるとの、博士の指摘に関心を抱いていた。
 ところが、大統領選を控えた2004年、博士がアイオワ大学で行った講演で、政府の気象学者たちは、温室効果による地球温暖化について語ることを禁じられていると批判し、自分は民主党のジョン・ケリー候補を支持すると断言して、ホワイト・ハウスの不興を買うことになった。
 12月の講演後、同博士はNASA本部から講演草稿、研究所のサイトへの書き込みなども調べられ、メディアとの接触を制限された上、「おしゃべりを続けると酷い目に遭うぞ=there would be "dire consequences"」と脅されてもいるという。当局側はこれについて、公務員の公務外活動の管理に過ぎないとしている。
 しかし博士は、「明文化されたNASAの任務に《我らの地球について識り、我らの地球を守る》という文言がある以上、この問題について発言しないのは無責任だ」と、徹底抗戦の構えだ。
 ブッシュ大統領は、31日の一般教書演説で「米国は石油中毒に罹っている=America is addicted to oil」と戒めたが、その結果の"二酸化炭素中毒"や異常気象災害への警告は、強権を揮って沈黙させたいようだ。(;)