文明の衝突(1)2006年02月07日 08:19

 今、地球上の各地に戦禍を撒き散らしている、欧米キリスト教世界とイスラーム世界の対立が、紛れもない「文明の衝突」であることを証明する、新たな"戦線"が出現した。
 イスラームの予言者ムハンマドの肖像を、デンマークの保守系紙「ユランズ・ポステン=Jyllands-Posten」が、12人の漫画家に風刺画として描かせ、「ムハンマドの12の顔」と題して掲載したのだ。原稿料は1点約15,000円。昨年9月末のことである。
 コペンハーゲンに駐在するイスラーム諸国の大使らは、同紙に謝罪を求め、ラスムッセン首相に取り締まりを要求した。保守・親米派でイラク戦争を支持する首相は、イスラーム信徒の抗議に理解を示しながらも、欧米近代文明の重要な柱の一つ「表現の自由」を説いて、要求は退けた。
 イスラームは、ムハンマドの教えに従って偶像を禁止している。信仰の純化を求める目的で、キリスト教にもユダヤ教にも同じ思想はある。が、イスラームでは特に厳しく守られ、アフガニスタンのバーミヤンの大石仏が、原理主義者らによって破壊されたのも、この教義による。
 それだけに、ムハンマドを戯画化し、頭部を導火線に火がついた爆弾に擬したり、これも戒律で禁じられた同性愛を絡ませた絵を見せられたイスラーム信徒は、泥靴で頭を蹴られた思いがしただろう。暮れに、事件がデンマークとサウジなどイスラーム諸国の外交問題に発展すると、独・伊・仏・蘭・スペイン・チェコなど欧州十数カ国の新聞がニュースとして取り上げ、「読者の判断材料」として、発端となった風刺画を相次いで転載した。この結果、騒動は年が明けてイスラーム圏の大衆による抗議行動に広がった。
 大衆行動が急速に世界に伝播するのは、衛星通信時代の特徴だ。2月4日には、シリアの首都ダマスカスでデンマークの大使館を焼き討ちした群衆がノルウェー、フランス両大使館にも押しかけたのをはじめ、レバノンのベイルートでもデンマーク領事館が大群衆に放火された。騒ぎはパレスチナ、インドネシアにも飛び火した。6日には、遂にアフガニスタンのデモで4人の死者が出た。 
 問題の根は深く複雑に絡んでいる。本来は同根であるキリスト教・ユダヤ教、そして「教」とは呼ばないイスラームが、風刺画ごときで、なぜこうも争うのか。改めて、その根底を考えてみる。(;)