文明の衝突(8)2006年02月16日 08:04

 イスラームの特徴を示す行いが、「五行」の第3「喜捨の義務」だ。アラビア語で「ザカート」と呼ばれるムスリムの務めで、信仰の実を示す課税とも言われる。
 邦訳の「喜捨」は仏教の用語で、財貨を自発的に仏に寄進することを指す。しかしイスラームでは、これに当たる寄金を「サダカ」と呼んで、信徒の義務であるザカートとは区別している。
 ザカートの本来は、貧民救済にあるとされ、全てのムスリムはウンマのために、所得・資産に応じた寄金を、貧者・孤児・寡婦などの救済に差し出すことが求められる。ただし近時は、イスラーム圏の政治・経済的混乱のために、十分には行われてはいないという。
 五行の第4は「斎戒」である。イスラームでは「穢れ・不浄」を忌むべきものとし、食欲・性欲など広い意味での生理的欲望も信仰の妨げになる「穢れ」と認識し、これを浄める斎戒「タハーラ」を重んじる。
 礼拝の際も、先立って「ウドゥー」といって、必ず頭と顔、肘から先の両手、膝から下の両足を洗う斎戒が求められる。このほかに、全身の沐浴も勧められるが、ウドゥーの場合、水がなければ砂で代用することが許されているのは、イスラーム圏の地理的特徴からだろう。モスクの入り口には、必ずウドゥーを行うための洗い場が備えてある。
 ムスリムにとって最大の斎戒は、イスラーム暦第9月「ラマダーン」に行われる28~30日間の禁欲である。この期間は、妊婦・授乳期の母親・病人・老衰者・旅人を除く信徒は、日の出から日没まで一切の飲食物を断ち、唾液さえ呑み込んではならない。もちろん、性的行為も禁じられる。この斎戒の本来の狙いは、飢えや渇きに苦しむ者の心情を、実体験を通じてムスリムに認識させることにあるという。
 五行の最後は「巡礼」だが、信徒は一生に1度は、ムハンマド生誕の聖地メッカに参詣することを奨励されている。教義では、イスラーム暦第12月8~13日に詣でるのが、五行で定める「大巡礼」として公認される。毎年、数百万人の信徒が参り、よく集団での事故がニュースになる。今年も巡礼者を乗せたフェリーが紅海で沈み、800人以上が犠牲になった。(;)