商売と良心(7)2006年06月23日 08:01

 半世紀以上も昔、ドイツ語をかじったころ、「商行為・商業」を、Handelsgewerbeと言うと教わった。Gewerbeは、職業・生業を示すが、商売・取引・貿易などを第一義とするHandelsという言葉には、争い・喧嘩・訴訟の意味もあり、むしろ語源的に Handelsgewerbe は「いさかい稼業」であるということだった。
 まだ「新自由主義」だの「市場経済至上主義」などという概念のなかった時代のことだし、ドイツ文化においても、当時の日本同様、「商行為・商業」は一段低い生業と見られていたようだ。それかあらぬか、現今のドイツ語で「商行為・商業」を指す Geshäft を、昭和15(1940)年・博文館刊の『独和辞典』で引くと、(1)仕事・用件・事務、(2)用便、(3)職業・営業・生業、の次にやっと(4)として商業・商売・取引・貿易・事業の意味が示されている。
 20世紀の2つの大戦で勝った、アングロ・アメリカンの商業文化が世界を席巻したため、武断的な文化の伝統を持つ日本やドイツでも「商売」の地位は華々しく上昇したことは間違いない。ところが、少なくとも日本における商業の体質は、未だに闇雲なカネ儲けに傾き、どのように稼ぐかの行儀、何のために儲けるか、儲けたカネを何に使うかの文明社会らしい考究は、無いに均しい貧しさ。企業の公益性どころかエゴ丸出しで、しばしば「まやかし稼業」の馬脚を現す。
 現に、株式を上場する大企業までを含め、◇約定で示した保険金を払わぬ損保、◇税法の解釈の違いを言い立てて高額の脱税をする商社、◇灰色金利を拠り所にする高利貸しに資金を提供して恥じない大銀行、◇原産地を偽って売る百貨店、◇社員がインサイダー取引をする大新聞社、◇リコール隠しをする自動車会社、◇巨額の粉飾決算をする企業とそれを助ける監査法人、◇国民の税金を私する各種業界の談合企業、◇安全と断定できぬ米産牛肉を情報不足の国民の口にねじ込もうとする外食産業や食品会社、◇耐震基準を満たさぬマンションを承知で売る建設企業……と、まるで悪魔と技を競うような商売人の揃い踏みを招いてしまった。いずれも、組織の「小悪」を高括って見逃したことに始まった「大悪」の繁栄である。(;)