母は家に戻れ2007年01月18日 08:14

 悲劇を煽るような感じがして、敢えて触れずにいたが、ひところの子供の自殺続発には胸が痛んだ。しかも、陰惨ないじめが原因と報じられたものが多く、なぜそこから防げなかったのかと、ひとしお哀れに思えた。
 中には、肝心の教師までが、いじめの先頭に立って、教え子を自殺に追いやった例まであって、教育現場の荒廃が、かなり広まっているのではないかと怒りを覚えた。
 このような悲劇は、マス・メディアの報道によって、時に連鎖的な発生を起こすことがある。子供が思い余って、自殺という解決方法を衝動的に模倣するという見方もあるが、自らの生命を絶つ行為は、尋常でない勇気がいることで、周囲はそこまで理解してやらねばならぬ。
 子供の自殺は、よくよくのことなのだ。それでも、理由がさっぱり分からないことだってある。昭和35(1960)年だったか、地方の任地で小学5年の女の子が、水田の中をどこまでも一本に伸びた単線の鉄路で、列車に飛び込んで自殺した事件を取材したことがある。飛び込んだことは、列車の運転士や、近くで野良仕事をしていた農民の証言で確かだったが、動機がさっぱり解らなかった。
 担任の教師も、家人も、口裏を合わせたように、「明るい子で、悩んでいる様子もなく、自殺の動機など全く解らない」と言った。一つ気になったのは、島倉千代子の熱狂的なファンで、今でいう「追っかけ」のようなことはしなかったが、レコードやブロマイドをたくさん集めていた。
 結局、「動機は不明」で締めくくったが、今でも「島倉千代子」をキー・ワードに、この子の自殺を思い出し、取材が浅かったのではないかと気に病む。鉄路の果てに、島倉の面影を追っていたのだろうか。
 子供は、子供なりに自分の世界を持っていて、大人も入れない心の闇がある。唯一人、その闇にすっと入って行けるのは両親、とりわけ血肉を分けた母親だ。
 だが、学校から帰っても母親が留守の「カギっ子」が、都会では7割という。「豊かさ」を優先し働く母親が増えた。暴論という人が多かろう。女性差別と怒る人もあろう。だが、貧しくともいいではないか、母は家にいて子を守れ。(;)