裁判は冷静に2007年02月06日 08:03

 法律家や学者に被害者団体の代表も加わった法制審議会の刑事法部会が、先月末、刑事裁判への「被害者参加制度の要綱案」をまとめた。今月の同審議会の総会で答申として了承されれば、法務省は法改正の手続きに入る。
 今の制度では、裁かれる犯罪の「被害者側」は、傍聴席で審理の経過を見守るだけだ。しかし新制度案が採用になると、被害者本人はもとより、被害者の配偶者や親子・兄弟姉妹などの親族が、柵で仕切られた法廷内の「被害者参加人席」に座って、検察官に情報を提供したり、情状面での証言をしたり、被告に直接質問さえできるようになる。
 さらに、検察官の論告・求刑が済んだ後に「被害者論告」を行って、検察官とは異なる、より重い刑の求刑さえ許されるという制度改革案である。
 「被害者参加」が認められるのは、殺人・強姦・業務上過失致死傷・誘拐などの重要犯罪だ。動機には、第三者には容易に理解し難い、犯罪発生以前からの積年の感情のしこりもあるだろうから、被害者側の抑え切れない情動によって、冷静であるべき法廷が「情」の影響を受けないとも限らない。
 「要綱案」は、このような「情」の空気が審理を左右しないように、被害者参加人の質問の内容などは検察官の点検を経る仕組みが考えられている。しかし犯罪被害者が、やむにやまれぬ情動を爆発させてしまう場面がないという保証はない。
 ましてこの制度が、目下、最高裁が採用の方向で推進している「裁判員制度」と併せ行われるようになると、法に基づいて冷厳な第三者の判断で行われるべき裁判が、「情」によって法にそぐわないものになることが、やはり心配だ。
 日弁連も同じ懸念を抱いて、裁判官・裁判員の心証形成に与える影響は限りなく大きいと、反対気運で身構えているという。もとより、人が人を裁くことは容易ではない。だからこそ、国民には裁判員になることを避ける気持ちも強い。
 現行の制度でさえ、加害者の取り調べに行きすぎがあったり、極端な場合は、人違いで有罪判決まで行った例さえある。裁きの場は、練達の専門家に任せる方が、良くはないか。(;)