社会部時代(7)2007年03月13日 07:54

 風呂桶のバーナーは、真ん中に点火に使う道火用の小さなコック、左右にバーナーへ通ずるガスを開閉する大きいコックが、それぞれ付いているタイプだった。
 ところが、左側バーナーのコックが、ほゞ完全に閉じられているのに、道火用は全開、洗い場に近い右側バーナーのコックは45度くらいの角度で半開きになっている。
 まだ都市ガスがゆきわたってない時代である。プロパンガスが盛んに使われていたが、ガス漏れ検知のための匂いをガスに混ぜてないものもあり、漏れたガスに引火・爆発したり、不完全燃焼で一酸化炭素中毒を起こしたりする事故が、かなりひんぱんに起きていた。
 朝日の、たしか甲府の支局でも、これより3年ほど前に、風呂のガスが不完全燃焼を起こして、支局員が一酸化炭素中毒になる事故があったのを記憶していた。
 次に、勝手場の方も見てやろうと立ち上がった時に、どこから現れたのか「鑑識」の腕章を着けた警官が、「もしもし、あんたどちら?」と声をかけてきた。
 仕方がない、正直に「朝日の記者です」と名乗ると、「困るネー、こんな所に入ってもらっちゃあ。現場保存の妨害だよ。さ、行った、行った」と、野良猫でも追うようにつまみ出されてしまった。強力班の刑事だったら、殴られかねないところだ。
 雑木林を縫うように続く小道を、乗り捨てたジープのところへ戻る道すがら、私は江森に言った。「エモちゃん、これは事故だよきっと。殺しじゃぁないと思うよ」。
 そして、(1)風呂場のプロパンガスの不完全燃焼→(2)被害者の一酸化炭素中毒・仮死状態→(3)長時間の不完全燃焼による自然発火→(4)大量焼死、──という仮説を、論拠を添えて話した。しかし、エモちゃんは簡単には信じなかった。(;)