続・運転士の職務2005年05月12日 08:16

 兵庫県尼崎で起きたJR西日本の大事故について、5月9日のこの欄に、「運転士の職務」と題して書いたところ、友人たちから、さまざまなご意見が寄せられた。
 拙文の要旨は、「大惨事の背景には、あまりにも収益本位に傾いた経営姿勢があり、犠牲者への喪に服すべき時に、旅行や宴会、ゴルフなどに興じていた社員がいたことを含めて、激しく非難されたのは是非もない」とした上で、「事故列車に乗り合わせたが、乗務を優先して職場に直行した2人の運転士の行動は、全体の運行業務を守ることためには当然で、死傷者を放置して、と一緒くたに責めるべきではない。世論に圧された処分など、あってはならぬ」というもの。
 これに対し、2人の運転士の行動を支持し、「よくぞ書いた」とする者が4、「やはり負傷者救出に加わるべきだった」と、筆者の判断に反対する者が3と分かれた。主要メディアの論調が、大きく影響しているようだ。舌足らずだった点を補いたい。
 巨大で複雑な組織を持つ事業体には、特定の要員に職責が任されていて、滅多なことでは他人に代わってもらえない職掌がある。
 この種の職場では、予定の「勤務表」を守って勤務することが優先され、急に休む"ポカ休"が重なったりすると、例えば鉄道やエア・ラインの場合、極端なケースでは、要員に二重勤務を強いたり、運休が出たりして大混乱になる。だから、職分が優先される。
 事故列車の3両目には、出勤途中のNHK神戸放送局・小山正人チーフ・アナ(52)が乗っていた。車内で激しく投げ出され、肋骨を折る大けがをしていたが、携帯電話で局に通報、痛みに耐えつつ現場の様子を冷静に"ナマ中継"する一方、乗客が血を流し、折り重なって倒れている車内の様子を、ディジタル・カメラで写していた。迫真の画像は、駆けつけた前線取材車から全国にテレビ中継された。
 彼は、全てを済ませてから病院に向かい、全治1ヵ月の重傷と分かった。これが報道人の職分だ。運転士を批判するメディアとて、「そんなに元気だったら、けが人救出に協力すべきだった」などとは言うまい。だから、職分を守った運転士の処分など、あってはならぬと書いた。めいめいが職分を守って、世の中が滑らかに回る。(;)