専制と電子情報2005年05月25日 08:19

 4月の初めから5月にかけて、中国各地で続発した反日デモの陰では、若者たちに普及したインターネットと携帯電話が大きな役割を果たした。情報が電子化される今日の社会では、これらの伝達手段が極めて高速に、効率よく、大衆を統一行動に鳩合する武器になる。
 ナチス・ドイツは、国民を一党独裁の専制政治へ同調させる手段として、ラジオと映画を有効に使った。だが、ラジオや映画の情報伝達には双方向性が欠け、受け手が情報を複製・伝播する能力も貧弱だった。
 だから、ナチスの教育宣伝の強力な武器として、当時は絶大な威力を誇ったラジオや映画も、今日のインターネットや携帯電話とは、機能において大人と子どもの差がある。
 つまり、インターネットや携帯電話には、受け取った情報を、そのまま、いとも簡単に転送、あるいは同放する機能が備わっている。従って、発信された情報は、幾何級数的な広がりと速度で伝達される。と言うことは、特定の勢力または権力が、何らかの意図をもって密かに大衆動員を組織しようと図れば、これほど効率のいい道具はない。
 今春の反日デモは、"愛国無罪の護符"を与えられ、反日行動に走ることを促された学生たちが、こうした電子情報システムを駆使して、さらに仲間を勧誘して群衆を形成し、日本の公館や進出企業に狼藉を働き、何者かの指揮に従って沈静化したと見られる。
 若者たちの乱暴を、警備の警官が黙過していた事実や、反日運動のピークと懸念された5月4日の記念日にパタッと行動が鎮まったのを見ても、背後に何者かの采配があったとしか思えない。現に当時、インターネットや携帯に、沈静を訴える治安当局の情報が流れていた。
 インターネットや携帯電話は、冷戦構造が崩れ、自由で主体的な情報交換の道具として民間に開放された。かつては軍が握っていた情報伝達手段であり、自由・民主主義・主体性が民間活用の前提になっている。それが、画一的に育てられた国民が圧倒的多数を占める一党独裁の専制国家で普及・活用される時、極めて危険なものになることを、今回の事例は明らかにした。(;)