「ウッセエー」2005年05月30日 00:45

 金髪の"ピアス・ボーイ"に、その料簡を訊ね、「ウッセエンダヨゥッ、コンジジイ!」と、怒鳴られた。
 その話を、銀髪の幼友だちに話したら、真顔で諌める。「やめとけ、やめとけ。下手をすると、いきなり刺されるぞ」と。家内もまた、怯え声で「やめてください。何をされるか分かったもんじゃありませんよ。第一、トシを考えてください」と言う。みんな、世代間の相互理解を怖がる。変だ。
  そういえば去年の秋、駅のホームで雲壺坐りして煙草を吸っている3人組の若者たちと、危うく立ち回りになるところだった。──私は言った。「あれを見たまえ、<終日禁煙>と書いてあるだろう。決まりは決まりだ。みんなで守らなければ意味がないじゃないか」
 ところが3人、黙ったまま知らん顔で烟を吹いている。ただ、それぞれ目はそっぽを向いたまま。当方の目をまともに見られないのは気弱の証だ。よし、ここは強く出てやれ。何より、声を掛けてしまったからには、スゴスゴと去るようなことは、できない。ネクタイをさっと外し、思いっ切りの大声で、
 「ッカヤロー、聞こえねェのかテメェら。禁煙って決まった場所じゃぁ吸うなッ」と、浴びせた。とたんに3人とも吸いさしをホームの床になすりつけて「ウッセエンダヨナァ」と小声の捨てぜりふを吐いて去ろうとするから、「待てぃ。ゴミも持って行けっ」──そこで、電車が来てくれた。
 この手の男女は、ルールが守れぬほどだから、マナーなど意識の外なのは女性も同じ。電車内でも、座れさえすれば、大きな手鏡を睨んで、口紅は引く、眉は描く、睫毛を立てるなんぞは序の口で、「しまいに鼻毛を抜くのを見た」という報告も聞いた。皆が皆ではないが、本当に呆れるような若者が多い。決まって茶髪だ。化粧とは「化相」なのだから、人前で化けられては、見る方がキモをつぶす。
 恐ろしい事件が起きたのは4月27日の白昼。東京の地下鉄千代田線広尾駅ホームで、例の如く手鏡を睨んでいた女性(22)を見かけ、「まぁ、こんなところでお化粧を……」と、小声で嘆いた旧友の妻(65)が、その女性に「ウッセエー」と小突かれてよろけ、入ってきた電車にはねられた。奇跡的に一命は取り留めたものの、頭を打ち肋骨や肩の骨を折って、何日か生死の境をさまよった。女性は逮捕されたが、日常が、命懸けだ。(;)