自死の周辺(2)2006年05月16日 07:57

 先週来、日本と英国で「自死」を巡る動きが目立つ。──日本では、13日、東京に本拠を置くNPO法人「自殺対策支援センター ライフリンク」などが、自殺者の家族と一緒に、自殺防止の特別法制を求める街頭署名を始め、15日には国会に陳情した。日本での自殺者は、7年連続して3万人を超え、発生率は10万人に24~25人と、世界の国別順位で10位前後と高い。
 このため、政府は昨年12月に、厚労省や警察庁などの関係省庁で自殺防止に共同対処する「総合対策」をまとめた。しかし、個々のケースの情報を関係省庁が共有して役立てようとしても、プライバシー原則などの障碍があり、総合策を裏づける特別法制が欲しい、というのが活動の動機だ。
 他方、英国では、「末期患者の自死支援法案=Assisted Dying for Terminally Ill Bill」を巡る激しい論議が10日に下院で、12日からは上院で始まった。この法律は、2004年11月に提案されて以来の懸案。耐え難い苦痛の下に、余命6ヵ月以内と診断された末期患者に対しては、医師に「致死剤の処方」を認めることを主眼とする。ただし、法案は医師にその致死剤を「投与すること」は認めていない。つまり、投与はあくまでも患者自身の判断と行為に委ねるという内容だ。
 しかしイギリスでは、医師による末期患者への"違法な自殺幇助"が1日当たり8件も起きているという現実がある。今回、改めて国会の論議になったのは、「進行性核上性麻痺症」に冒された女医が、安楽死を認めているスイスへ息子と娘たちを伴って赴き、自死した事件がきっかけ。
 英国で、海外に安楽死を求めに行く同様の例は、過去3年に42件を数え、特に今回は死期がさほど切迫してはおらず、テレビなどのマスコミが母子の道中を密着報道をして政治問題化したこと、さらに、息子たちまでが「自殺幇助罪」の対象になる恐れが出てきて、論争が拡大した。
 英世論は法案を巡って二分、国会の審議では英国教会カンタベリー総本山のロマン・ウイリアムズ大主教が反対論を主張するなど、カトリックやユダヤ教の代表も法案阻止に回っている。(;)