移民の身勝手2006年05月08日 08:09

 こと白人中心の既成社会の防衛に関しては、アメリカ政治の理屈抜きの身勝手さに、唖然とさせられることがしばしばだが、5月1日の、全米100万人という大規模なヒスパニック系移民らのデモに火をつけた「移民規制法案」にも、やれやれという思いを禁じ得ない。
 一般に「ヒスパニック」とは、「北米に住む、スペイン語を母語とする人々」と括って、差別的な響きを逃れるため、Latinos(ラティーノス)と呼ぶ場合もある。多くがカトリック信者で、これは15世紀から始まったスペイン、ポルトガルの中南米進出と植民地化の名残だ。カトリックの教義が、現住民と白人の混血に寛大だったため、人種的にはかなり多様な流れが生じ、今日に至っている。
 アメリカは、1819年にスペインからフロリダを買収、45年にはスペインから独立していたテキサスを、翌46年にはオレゴンを併合した。さらに、46~48年のメキシコとの戦争によって、カリフォルニア、アリゾナ、ニュー・メキシコを獲得した。従って、古くから「ヒスパニック」を抱えてはきた。
 今回、問題になっている「ヒスパニック」は、20世紀後半以降、主として国境を接するメキシコを経由して「不法に」入ってきた移民である。その就労・定住を規制する法案が、昨年暮れに下院で可決されたことをきっかけに反対運動が始まり、100万人のパワーに広がった。
 こうした不法移民は、全米で約720万人、全労働者の5%。農業労働者の24%、建設労働者で14%を占めるという。「ヒスパニック」全体の数も、全米で2004年に4,130万人に達し、増加率も際だって高く、2050年には1億人を超えて全米人口の4分の1を占めると見越されている。
 「不法移民」と呼んでも、雇い主は低賃金を重宝しているため、上院は逆に市民権の付与に道を開く別の法案を検討するなど、「ヒスパニック」大票田への配慮も絡んで複雑である。
 元来、先住民を除けば全て移民のお国柄だ。最初の渡来者とて、「不法移民」と言えなくもない。余力がないならいざ知らず、後から来た移民を単純に排除するのでは、自由・平等・博愛の看板が泣く。(;)

コメント

_ 天原一精 ― 2006年05月09日 03:04

竹庵先生の話題とは直接関係ございませんが、読みながら、シアトル酋長の言葉を思い出しておりました。

「父は空 母は大地」
ワシントンの大酋長へ そして 未来に生きるすべての兄弟たちへ

どうしたら空が買えるというのだろう? 
そして大地を。
私にはわからない。風の匂いや 水のきらめきを、 あなたはいったいどうやって買おうというのだろう? 
……
白い人は 母なる大地を 父なる空を まるで 羊か 光るビーズ玉のように売り買いしようとする。
大地をむさぼりつくし
後には 砂漠しか残さない。
白い人の町の景色は わたしたちの目に痛い。
白い人の町の音は わたしたちの耳に痛い。
……
あらゆるものが つながっている。
わたしたちが この命の織り物を織ったのではない。
わたしたちは そのなかの 一本の糸にすぎないのだ。

生れたばかりの赤ん坊が
母親の胸の鼓動を したうように
わたしたちは この大地をしたっている。
もし わたしたちが どうしても
ここを立ち去らなければ ならないのだとしたら
どうか 白い人よ
わたしたちが 大切にしたように
この大地を大切にしてほしい。
美しい大地の思い出を
受けとったときのままの姿で
心に 刻みつけておいてほしい。
そして あなたの子どもの
そのまた子どもたちのために
この大地を守りつづけ
わたしたちが愛したように 愛してほしい。
いつまでも。
どうか いつまでも。

(一八五四年、アメリカ政府は三年間のインディアンとの戦いの末、インディアンの土地を買収し、居留地を与えるとのたまうた。迫り来る文明の嵐を前にこれ以上の抵抗は無益だと考えたシアトル酋長は、土地への強い思いを演説に託した。インディアンの言葉で語られたそれは通訳され、その場で英語に書き留められた。右は、寮 美千子氏の名訳の一部抜粋である。(「父は空 母は大地 インディアンからの手紙」パロル舎)

 考えてみますと、他を食いつぶしながらする生存手法の誕生は遠く旧約聖書に遡るようです。イスラエルの民は「神がヨシュアに、王をはじめ一切を滅ぼすよう命じたことを実行することによって、カナン(いわゆるパレスチナの地)を手に入れた」ように、この神の命令はその後もずっと生き続け、近世の犠牲者(異教徒)はアフリカであり、中南米でありアメリカ新大陸でもありました…。そして、外に食う相手がなくなった時、増殖のエネルギーの向かうところは、内輪の食い合いであり、さらなる貧富差の拡大と敵意の蔓延を引き起こすことになっています…。



_ 竹庵(天原一精様へ) ― 2006年05月09日 09:47

 天原一精様。 私の申し上げたいことは、シアトル酋長の考えと同根なのです。私たち日本人も、ワシントン酋長やロンドン酋長やらが、大砲を携えてやって来た時、神仏混淆や八百万の神の世界観を捨てて、バターと硝煙の匂いが秋津島の空気を覆うがままにしてしまいました。そしていま、彼らと同じに、目に見えない大いなるものを畏れなくなってしまった。
 取り返しのつかないことですが、せめて、自然を相手の貪りをやめないことには、いつか自分も食われることになるでしょう。
 インディアンの賢さは、ほかにも胸を打つ哲学の記録が残っていますが、なぜ白い人たちは、謙虚に学ばなかったのでしょう。

_ Luke ― 2006年05月09日 17:33

米国人にも、ジョン・ミュアやH.D.ソローのような人達はおりますが、今の政治家の中には皆無なのでしょう。

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年05月10日 08:33

 Luke様。 大層、博識な方ですね。<ジョン・ミュア>については、私は知識がありません。綴りは John Muir でしょうか。ご教示ください。

_ anonymous ― 2006年05月10日 17:01

私は「森の聖者 自然保護の父 ジョン・ミューア 山と渓谷社 加藤則芳著」を読んだだけですが、米国の自然保護の父と呼ばれる人物です。私もちょっとだけ会員だったことがある、シェラ・クラブの初代会長で、セオドア・ルーズベルトが大統領になった折、彼を訪ね、三泊四日のキャンプをヨセミテで行い、自然保護についての教えを請うたそうです。Googleで「ジョン・ミュア」を検索すると、とても詳しいサイトがたくさんヒットします。ご覧ください。

_ Luke ― 2006年05月10日 17:03

おっと、また名前を入れ忘れてしまいました。
シェラ・クラブのパンフにあったミュアの言葉「...Do something for wildness and make the mountains glad.」がとても好きです。

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年05月10日 17:14

 Luke様。 たいへん有難うございました。さっそく、当たってみましょう。

_ 天原一精 ― 2006年05月13日 01:15

竹庵先生
lukeさま

 ブロクとかいうの、とてもありがたいですね。お目にかかったわけでもありませんのに、時に魂を揺さぶるお言葉に接する事ができます。(感謝!)

ところで、

 インディアンの賢さは、ほかにも胸を打つ哲学の記録が残っていますが、なぜ白い人たちは、謙虚に学ばなかったのでしょう。

 何かいい文献がございましたら、ご教示ください。私が読んだ唯一のインデアンの著作は、ご存知のことと思いますが、リトル・トリー(フォレスト・カーターめるくまーる)です。私どもと似た感性を感じています。本来のアメリカ大陸の風土を感じます。

_ 天原一精 ― 2006年05月13日 01:35

追記です。
 リトル・トリーをひっくり返してみてところ、「今日は死ぬのにもってこいの日」MANY WINTERS ナンシーウッド著

 グラス・ダンサーTHE GRASS DANCERスーザン・パワー著

が紹介されていました。

 前者について、中沢新一先生の紹介文「宇宙の流れの中で、自分の位置を知っている者は、死を少しも恐れない。堂々とした人生、そして祝祭のような死。ネイティブ・アメリカンの哲学は、我々を未来で待ち受ける」とあります。読んでみましょう。

_ 竹庵(天原一精様へ) ― 2006年05月13日 09:52

 天原一精様。 アメリカ・インディアン関係の本は結構たくさん出ています。ご参考までに、神奈川県立図書館の蔵書目録から拾ってみました。  
 8.11.17.26 は目を通した記憶があります。どの本も、読破してみたいタイトルですね。ただ、最近は目の衰えが甚だしく、2時間も読書をすると目がかすむといった、惨めな状況になっています。
 だからこそ、若い人たちには、40歳前にたくさん読んでおくことを勧めているのですが、……。以下、ご参考までに。必読の書が見付かったたら、教えてください。

1 帰ってきたナバホ / 一之宮久 三一書房 198103
2 アメリカ・インディアンの歴史 / 富田虎男 雄山閣出版 198209
3 魔法としての言葉 / 金関寿夫 思潮社 198805
4 民話の構造 / アラン ダンダス 大修館書店 198011
5 ウインタ-・カウント / D チ-フ イ-グル 誠文堂新光社 198305
6 アメリカ・インディアン史 / W T ヘ-ガン 北海道大学図書刊行会 198406
7 インディアンは手で話す / 渡辺義彦 径書房 198610
8 わが聖地を守れ! / 一之宮久 三一書房 198606
9 アメリカ・インディアンの詩 / 金関寿夫 中央公論社 197706
10 ナヴァホ語入門 / 戸部実之 泰流社 198811
11 アメリカ古典文庫 14 / 本間長世 研究社出版 197705
12 アメリカ・インディアン / ウィルコム E ウォシュバ-ン 南雲堂 197705
13 ゴ-スト・ダンス / ジェイムズ ム-ニ- 紀伊国屋書店 198902
14 アメリカ・インディアン / 青木晴夫 講談社 197905
15 聖なる魂 / 森田ゆり 朝日新聞社 198907
16 精霊と魔法使い アメリカ・インディアンの民話 / マ-ガレット・コンプトン 国土社 1986
17 アメリカ・インディアン悲史 / 藤永茂 朝日新聞社 1974
18 世界のメルヒェン図書館 10 / 小澤俊夫 ぎょうせい 1982
19 アメリカ・インディアンの神話 / ポ-ル G ゾルブロッド 大修館書店 1989
20 アメリカ・インディアンのえもじのえほん / ロバ-ト・ホフシンド 至光社 1980
21 アメリカ・インディアン悲史 / 藤永茂 朝日新聞社 1972
22 おれは歌だおれはここを歩く / 金関寿夫 福音館書店 199202
23 ねずみの友だちから学んだこと / カリン・フォン・ヴェルク リブリオ出版 199202
24 北西海岸インディアンの美術と文化 / D.キュ- 六興出版 199007
25 コヨ-テは赤い月に吠える / 本間正樹 文芸春秋 199205
26 アメリカインディアンの教え / 加藤諦三 ニッポン放送出版 199007
27 コヨ-テ老人とともに / ジェイム・デ・アングロ 福音館書店 199206
28 アメリカ・インディアン / フィリップ・ジャカン 創元社 199207
29 アメリカ研究シリーズ 第14号 / 立教大学アメリカ研究所 同研究所 199203
30 アメリカ先住民のすまい / L.H.モ-ガン 岩波書店 199012
31 アメリカ・インディアン / 清水知久 中央公論社 1971
32 ロ-リング・サンダ- / ダグ・ボイド 平河出版社 199101
33 蛇と太陽とコロンブス / 北沢方邦 農山漁村文化協会 199209
34 コロンブスが来てから / ト-マス・R.バ-ジャ- 朝日新聞社 199212
35 メディスン・ホイ-ル / サン・ベア ヴォイス 199106
36 アメリカインディアンの教え 続 / 加藤諦三 扶桑社 199303
37 ハウ・コラ / 横須賀孝弘 日本放送出版協会 199107
38 アメリカ研究シリーズ 第13号 / 立教大学アメリカ研究所 同研究所 199103
39 大酋長フィリップ王 / 加藤恭子 春秋社 199107
40 イクトミと大岩 / ポ-ル・ゴブル 宝島社 199305
41 ホピ・精霊たちの台地 / 青木やよひ PHP研究所 199306
42 イシ / シオド-ラ・クロ-バ- 岩波書店 199109
43 イクトミと木いちご / ポ-ル・ゴブル 宝島社 199309
44 北米インディアン生活誌 / C.ハミルトン 社会評論社 199311
45 イクトミとおどるカモ / ポ-ル・ゴブル 宝島社 199402
46 レイム・ディア- / ジョン・ファイア-・レイム・ディア- 河出書房新社 199312
47 インディアンの大地が危ない / 助安由吉 エイト社 199304
48 イクトミとしゃれこうべ / ポ-ル・ゴブル 宝島社 199502
49 クロウチ-フ / ポ-ル・ゴブル 宝島社 199510
50 変貌する大地 / ウィリアム・クロノン 勁草書房 199510
51 ビジュアル博物館 第60巻 / マ-ドック,デビッド 同朋舎出版 199512
52 ト-テムポ-ル世界紀行 / 浅井晃 ミリオン書房 199612
53 大平原の戦士と女たち / ダン・ア-ドランド 社会評論社 199909
54 アメリカ・インディアンの神話と伝説 / エラ・イ・クラ-ク 岩崎美術社 1972
55 アメリカ・インディアンの民話 / S・トムスン 岩崎美術社 1970
56 ラ・サ-ル探検記 / F.パ-クマン 鳳映社 1959
57 わが魂を聖地に埋めよ 上巻 / ディ-・ブラウン 草思社 1972
58 わが魂を聖地に埋めよ 下巻 / ディ-・ブラウン 草思社 1973
59 白い征服者との闘い / レッド・フォックス サイマル出版会 1971
60 アリストテレスとアメリカ・インディアン / L・ハンケ 岩波書店 1974
61 世界と日本の不思議・探検 5 / 野村芳夫 三省堂 197803
62 ちょうざめにのまれたナナブシュ / みながわそういち コ-キ出版 197706
63 なつをとりにいったかりうど / みつのぶてつろう コ-キ出版 197706
64 一万年の旅路 / ポーラ・アンダーウッド 翔泳社 1998.5
65 インディアンの生き方 ワールドフォトプレス 2000.2
66 熱きアラスカ魂 / シドニー・ハンチントン めるくまーる 2000.5
67 インディアンの声を聞け ワールドフォトプレス 2000.8
68 草原の小さな家 / ローラ・インゴールス・ワイルダー 新教育事業協会 1950.5
69 鷲と少年 / 北山耕平 ビイング・ネット・プレス 2002.5
70 ますらお / 北山耕平 ビイング・ネット・プレス 2002.6
71 パウワウ / エリコ・ロウ 青春出版社 2002.7
72 逃亡者のふり / ジェラルド・ヴィゼナー 開文社出版 2002.10
73 インディヘニスモ / アンリ・ファーヴル 白水社 2002.10
74 風の民 / 猪熊博行 社会評論社 2003.10
75 アメリカ先住民 / 阿部 珠理 角川学芸出版 2005.6
76 アメリカインディアンの現在 / デイ多佳子 第三書館 1998.1
77 アメリカン・インディアンの歌 / ジョージ・W・クローニン 松柏社 2005.12
78 アメリカ建国とイロコイ民主制 / ドナルド・A.・グリンデ みすず書房 2006.1
79 ネイティブ・アメリカンの世界 / 青柳清孝 古今書院 2006.1

 

_ 天原一精 ― 2006年05月13日 14:12

竹庵先生
まことにありがとうございました。
こんなにたくさんの本をご紹介いただきました。全部パソコンでお書きになられたのでしょうか。それだけでも恐縮します。一冊でも二冊でも読んでみようと思います。ありがとうごいました。

_ 竹庵(天原一精様へ) ― 2006年05月13日 16:39

 天原一精様。 いやいや、うまくペイストしただけです。ご恐縮は無用ですよ。

_ Luke ― 2006年05月13日 17:22

竹庵さま、
天原さま、
以前より、ネイティブ・アメリカンとその思想について、興味がありました。ちょうどアウト・ドアでの活動やバック・パッキングに興味があったときに読んだ本の影響でした。「バックパッキング入門:芹沢一洋著:山と渓谷社:昭和51年」
巻頭に米国での自然回帰への高まり、ヒッピーやビートらが信奉した人物として、ソローやミュアが紹介され、ソローの「森の生活」と、前述のミュアに関する本を読んだのでした。また、アメリカ・インディアン(当時はネイティブ・アメリカンとは言わなかった)についても触れており、動物記で著名なシートンがインディアンの生活技術の素晴らしさを知り、ボーイスカウトの設立に参画した、などの逸話が紹介されていました。
その後、バック・パッキングやウォーキング(とてつもない長距離を歩くのですが)はブームとなりましたが、その背景にある、自然回帰への様々な思想や、哲学は忘れ去られて行きました。とても残念なことです。
私は今でも毎年、数家族で夏にキャンプを楽しんでおりますが、飲んで食べて語らうキャンプも楽しいのですが、その背景についても、じっくりと振り返り、また勉強し直したいと思った次第です。ご紹介いただいたネイティブ・アメリカンに関する本を、今年は読んでみたいと思いました。特に「イシ」に関する本は、以前にも何かで紹介され、興味を持っておりました。今回ご紹介いただき、是非読んでみようと思いました。ありがとうございました。

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年05月13日 20:13

 Luke様。 お役に立てて何よりです。子どもたちを自然の中で生活させることは、とてつもなく優れた教育効果があります。私は、子どもをディズニー・ランドの類に連れて行く親の気持ちが、全く理解できません。そこには、虚妄しかない。それに引き替え、自然の姿は全て真実を語って、人に知恵を与え、人を育てます。
 この夏も、大いにお楽しみください。

_ Luke ― 2006年05月13日 23:14

竹庵さま、
雨が続き、寒い夜です。
早速、図書館に「イシ 北米最後の野生インディアン」があったので、予約しました。

竹庵さまのお言葉から、レイチェル・カーソンの、「センス・オブ・ワンダー」の一節を思い出しました。

「もしもわたしが、すべての子どもの成長を見守る善良な妖精に話しかける力をもっているとしたら、世界中の子どもに、生涯消えることのない「センス・オブ・ワンダー=神秘さや不思議さに目を見はる感性」を授けてほしいとたのむでしょう。この感性は、やがて大人になるとやってくる倦怠と幻滅、わたしたちが自然という力の源泉からとおざかること、つまらない人工的なものに夢中になることなどに対する、かわらぬ解毒剤になるのです。」

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年05月14日 12:30

 Luke様。 いい言葉ですね。それにしても「野生インディアン」とは、酷い邦訳ですな。

_ Hiro-san@ヒロさん日記 ― 2006年05月27日 01:04

はじめまして。この本はすばらしい本ですが、『第14代米大統領フランクリン・ピアスに宛てた手紙』というのは捏造で、流布しているテキストも、Ted Perryによる創作です。ご関心があれば、遊びにいらしてください。
http://www.mypress.jp/v2_writers/hirosan/story/?story_id=1416929

_ Luke ― 2006年05月27日 07:27

竹庵さま、ヒロさま、
おはようございます。雨の朝です。まるで梅雨のような日が続きますね。

ヒロさまのHP,拝見いたしました。捏造されたものとは知りませんでした。そうとはいえ、なぜこの様なものが流布され、未だに消え去らないかと思うと、そこに込められたものが心を打つからだと思います。征服したもの達の後悔の念とも受け取れます。

「イシ -北米最後の野生インディアン- シオドア・クローバー著 行方昭夫訳 岩波書店」を読みました。

1911年に牧場で保護されたヤナ族最後の一人を、その死まで見守った人類学者、A.L.クローバー教授の妻が、夫の死後に書いた本です。イシはカリフォルニア・バークレーの博物館で4年を過ごしたのち、結核で亡くなります。「イシ」は人を意味する言葉で、アイヌと同じですね。自らの名も、一緒に暮らしていた数人の血縁者達の名も、口にしなかった(宗教上の理由から)ため、そう呼ばれていたそうです。

この本もそうですが、石器時代そのままの暮らしをしていた先住民に対して、一種の尊敬の気持ちがうかがえます。また、虐殺し、土地を取り上げ、居留地に閉じこめた人々に対して、知識人の自責の念の様なものを感じます。本自体はほとんど感情を込めず、冷徹に事実だけを記述していますが、クローバー教授は、イシの死後、彼に関して何も語らず、本を著すこともなかったそうで、部族を絶滅に追いやってしまったことへの、後悔の念、白人社会に対する怒りがあったかのようです。イシは自分を保護してくれる人類学者、医師達数人と非常にうち解けて、友人として認め、居留地で暮らすことよりも博物館に住むことを望み、館の雑役夫として働き、賃金を得て暮らしたそうです。

心に残った一節を引用します。
--------
・・・・イシは自分からすすんで白人の世界の「便利さ」と多様性を高く買っていた。イシにしても、あるいは苦しい欠乏生活を送ったことのある者なら、そのような困難を緩和するようなものや快適な、さらに贅沢な生活を保障するようなものを低く見ることはできない。彼は白人を幸運で、創造性に富み、とても頭がよいと考えた。しかし望ましい謙虚さと、自然の真の理解ー自然の神秘的な顔、恐ろしさと慈悲の入り交じった力の把握において幼稚で欠けるところがあると見ていた。  クローバー(教授)は今の時点で振り返ってみて、イシをどう思っているかと聞かれ「私の知ったもっとも忍耐心のある男です。忍耐の哲学を完全に身につけ、しかも、彼の快活な忍耐心の純粋さをくもらせる自己憐憫とか苦渋の跡が全然見られなかった」と述べている。彼の友人たちはみな快活さをイシの性格の基本的な特徴と考えているようで、この快活さはその機会が与えられると、おだやかなはしゃぎにもなりうるものであった。彼の生き方は安心立命の道、中庸の道であって、少し働き、少し遊び、親しい友に囲まれて静かに歩んで行くという風であった。・・・
--------

私もこのような人生を歩んで行きたいと思う次第です。

本は以下のように結ばれています。
-----
・・・それから彼は、古代ヤナ族の故郷からミル川、ディア川に沿うてヤナ族の死者の国に至る長旅を終えてこの世から姿を消した。彼の友人とその世界への告別は彼の好んだ別れの挨拶と同じく物静かなものであったー

  「あなたは居なさい、ぼくは行く。」

_ 竹庵(ヒロ様へ) ― 2006年05月28日 15:01

 ヒロ様。 初めまして。おそるべきブロガーがおられることを知り、驚きかつ感服しております。時間が充分になく、満足にトレースはしていませんが、貴方様のご提示を90%信じることとして、非情に興味深い捏造の経過だと思います。
 ただ、シアトルの酋長が、そもそもこのような思想の持ち主であったかもしれないという斟酌を残して、改竄と言いたいところですが、崇高な精神とそれへの民衆の共感をメシのタネに使う、利に敏い人間もいる、ということでしょうか。
 たいへん貴重な資料を、ありがとうございました。

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