152億円の失敗2007年02月13日 07:58

 大規模な技術開発や、空前の冒険的科学プロジェクトには、時に莫大な資金を投じながら「失敗」という結果で終わるものがある。その多くが、悪条件の重なりとか、同時並行で進むべき連携プロジェクトの開発に歩調の乱れが生じたとかの「間の悪さ」から、不成功を招いた例だ。
 しかし素人目にも、「成功」そのものが「信仰」になって引き返せなかったのでは、と感じさせるものがある。今年1月、1991年の着手以来、15年の歳月と152億円の国費を費やした計画を、遂に中止した宇宙研究開発機構(JAXA)の「ルナーA=LUNAR-A」計画も、そんな一例である。
 計画は、月に送った「母船」から、「ペネトレイター=貫徹器」と称する砲弾状の探査機を月面下2mほどの深さに打ち込み、月の内部構造の解析や水など資源の状況を探ろうという構想。当初は1995年に打ち上げる計画で、母船だけは、1996年に完成していた。
 ところが、ペネトレイターの開発が遅れに遅れた。主な理由は、母船から発射して月面に打ち込む際の、激しい衝撃に耐えられる強度が得られなかったためという。もともと着地点が、運良く岩石でないという前提があるようなものだったし、設計図を見る限りでは、緩衝機構もない。
 苦心の末、ペネトレイターは2008年中には完成の見込みとなったが、約10年もの間“積み荷”を待ちわびていた母船本体は、接着剤が劣化するなどして、宇宙飛行に耐えられなくなっていた。おまけに、ペネトレイターを積んだ母船を打ち上げる「M-Vロケット」が、打ち上げコストに難があって、2006年7月で廃止になっており、月への運搬手段まで失っていた。
 3年ほど前、プロジェクト関係者から話を聞き、素人ながら、クラスター爆弾のように小型の探査機を数多くばら撒いて、月の表面からデータを取れないのか。あるいは、先頭に本体を迎える穴を作る爆弾を備えた「爆弾・本体二段式」のペネトレイターを使えないかと思った。中国は、月の資源探査に集中しようとしている。JAXAは失敗の全経過を公表し、「なぜ」を明確にすべきだ。(;)