新聞の衰微(12)2006年08月22日 07:57

 コマ漫画の作者は、社会面で報じられた厳冬の時計の"欠陥"を、格別のためらいもなく題材にしたのだが、不可解な理由で差し替えを要求され、いささかコチンと来たのだろう。2月4日付けの紙面に、再び、本体部分にふわふわの毛皮を着せた腕時計を登場させた。
 今度は、時計店が舞台ではなかったが、連載漫画の主人公が裕福そうな女性に「いま何時でしょうか?」と尋ねる。女性が、宝石で飾られた腕時計を黙って示すと、主人公は「ありがとうございました」と、自分の腕時計の時刻を合わせようとする。女性が「何ですか それ?」。ここで主人公が、毛皮を盛大に着せた腕時計を示しながら、「冬はミンクをもちいています」と、オチをつける。
 時計業界にとっては、イケズ以外の何であろう。私は、整理部長のWに、業界が件の記事や事後の対応に納得せず、関係が険悪化していることを告げ、この刺激的な漫画を差し替えて欲しいと強く迫った。
 しかし、Wは頑として首を縦に振らない。「今回は時計店を舞台にしているわけでないし、単なるジョークだ」「整理部長としては、自社の記者が書いて、紙面に載った記事の信頼性は否定できない」と言い募った。
 こういう場合、編集・広告の両局長の話し合いという打開策もあるにはあったが、当時の広告局長は、編集部門に何かを主張できるような勇気の人ではなかった。
 結局、漫画は全版を通して載った。時計業界側がカンカンになったのは言うまでもない。彼らはA新聞社の良心と誠意を見限った。しかし、「打開の提案がある」と言って、時計工業会の幹部を先頭に7人ばかりで来社、S科学部長とZ記者を前にして「善処」を求めた。が、ヌカにクギだった。
 最後に、業界側が「そんなに当方の言い分を信じられないのなら、ご指摘のような気温の下で公開実験をしましょう。それを、改めて記事にしてください」と言った。
 すると科学部長のSは、間髪を入れずに、「いや、それには及びません」と言って立ち上がり、「さ、行こう」と、傍らのZ記者を促して席を立ってしまった。私はその時、「これで、事実関係に関しては勝負あったな」と思った。(;)=続く

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