新聞の衰微(11)2006年08月21日 08:00

 社会面に連載されるコマ漫画は、題材を直近の記事から採ることが多い。コマ漫画ばかりでなく、読者の話題を誘う記事ほど、1面のコラムや投書欄のギャグなどの題材に、内容を転用されることがある。
 だから、この記事についても、トラブルを拡大させぬためには、社内の関係部署にも知らせておくにしくはない。──私は、H時計店から最初の抗議を受けた翌日、抗議の内容と当方の応接の詳細を文書にして、編集局の科学・整理(編集)・記事審査の各部長に届けておいた。
 ところが、数日後の夕刻、翌日付け朝刊の早版社会面を見て「アッ」と叫んだ。20数年前のことで、さすがに細かいことは忘れたが、コマ漫画は時計店の売り場を舞台に、裕福そうな女性客に、本体部分にふわふわの毛皮を着せた腕時計を店員が薦めている場面で、「お寒い冬には、これが一番です」といったキャプションがつけてあったと記憶する。
 明らかに件の記事をヒントに描かれたもので、この漫画が遅版にまで通しで載ったら、時計業界の憤激は頂点に達するだろう。私は、早版片手に編集局に駆け上がり、整理部長のWに、「報告書を届けておいたのは、こんなことが心配だったからだ」と言って、「善処」を懇請した。
 Wは、かつての同僚だった。編集局のカナメの部長として肩肘張っている様子で、「特定業界のために紙面を変えるのか」などと、建前論を口に渋ったが、結局、コマ漫画を担当する学芸部を介して漫画の作者に頼み、遅版用には別のテーマのものを差し替えてくれた。
 ただ、東北などの早版地帯には、問題のコマ漫画が配られてしまった。時計業界や町の時計店が怒ったのは言うまでもない。しかし時計工業会は、当方が遅番の紙面では差し替えた「誠意」を評価して、決裂の事態は避けてくれた。
 それでも、この頃から、新聞社の営業部門と編集部門の人間には、「社会人としての常識の差」があることを、業界の人々が理解し始めていた。
  だが、騒動はなおも治まらなかった。またもコマ漫画が火ダネに油を注いだのだった。(;)=続く

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