核を考える(2)2006年11月15日 08:05

 ◇2006年2月23日、米英は共同で米ネヴァダ州の地下核実験場で「未臨界核実験」を行ったと公表した。◇10月末、ロシアが潜水艦発射弾道ミサイルの実験に失敗したとの情報が流れた。◇先週9日には、仏国防省が新型の大陸間弾道ミサイル「M51」の発射実験成功を発表した。「M51」には6個の核弾頭が搭載可能で、射程は8,000km。2010年から一線配備するとされる。
 このように、「NTP」で「核軍縮の推進」を約束させられている5大核保有国の間で、軍縮どころか核装備の高度化に励む動きが止まらない。
 加えて、「NTP」に背を向けて加盟しない核保有国であるパキスタンは、2006年3月と4月に中距離弾道弾の実験に挑戦、同じインドも7月9日に射程3,500kmの弾道ミサイル「アグニ3」の発射実験を行っている。
 他に、イスラエルの核保有は公然の秘密だ。北朝鮮は周知の通り。今朝の外電は、イラン大統領が同国が3ヵ月内に核保有国になると言明したことを伝えている。つまりNTPは、もはや機能していないと言わざるをえない。
 なのに、核武装の「是非論議」さえ頭から禁ずる勢力は、「日本は、NTPを積極的に支持・牽引してきた立場だから、自ら核武装を肯定すると、国際社会の信用を失うだろう」などと言う。しかしこれは、国際社会の現実を踏まえた立論ではない。
 5大核保有国をはじめ「NTP加盟国」は、条約が日独の核武装阻止を副次的な目的として構想されたことを知っている。だから、日本が「積極的にNTPを支持・牽引してきた」などとは評価しない。もし、日本にそのような働きを期待しているのなら、日本の国連常任理事国入りをこぞって支持しているはずだ。が、そんなことはしない。
 幸か不幸か、対立国家が互いに核武装した場合は、もはや両者の戦は小競り合いに限らざるを得なくなることを、かつての米ソの「冷戦」を手本に、インドとパキスタン、インドと中国が追認し、イスラーム諸国に囲まれたイスラエルも、「核武装の大戦抑止効果」を世界に示してしまった。(;)

核を考える(3)2006年11月16日 08:01

 「核武装論議タブー論」には、「日本が核武装をする気配を見せることは、日米安保体制への不信表明と取られ、米国の不興を買って同盟関係にヒビが入る」という、有力な推論がある。ありうる事態の想定で、米国に民主党政権が誕生でもすれば、「自前でやれるなら、やってごらん」と、突き放されることも考えられないではない。──わが国の核の問題を考える時、ここが一番、切ないところだ。
 現実問題として、日本はアメリカの「核の傘」から一歩も出られない立場にある。核兵器、わけても核弾頭ミサイルが、敵対国家の攻撃に対抗する「抑止力」になることは、明らかである。もちろん、ひとたびこのような兵器を持てば、相手方も同レベルかそれ以上の破壊能力を持つ核弾頭ミサイルを持つ方向に走るのは、現実論が支配する国際関係では、止めようがない。
 とは言え、現実論に立った核兵器の「対抗保有」を放棄し「夢幻的平和主義」に頼ることは、外交上の立場を極端に弱くし、安全保障上の主体性を放棄する道でしかない。武力は外交の最後の手段であり、いかなる武力を保有しているかが「外交力」として評価されるのは、「砲艦外交」が切り札とされた時代は言うに及ばず、人類有史以来の「定理」である。
 だが、敗戦後の日本は、この歴史的定理に反する道を、押し付けられて歩んできた。「平和憲法」と「非核3原則」によって枷をはめられた外交力の弱さが、米国の「核の傘」に依存する安全保障体制を生み、今、現実の試練に直面させられている。
 その外交力の弱さは、1988年に締結された「日米原子力協定」によっても裏打ちされている。同協定8条は、米国から提供された核平和利用のための核燃料、施設・装置を核兵器の研究・製造に転用することを禁じ、日本核武装の大きな歯止めとしている。今や電力量の約3割を原子力発電に依存し、産業の"血液"としている日本は、この面からも、核武装の手を自ら縛っているのだ。
 だが国家は、自国の利害をあくまでも冷徹に、主体的に計算し、行動しなければ自滅を招く。(;)

核を考える(4)2006年11月17日 08:03

 10月10日の北朝鮮による核実験公表の直後、共同対処を図って日中韓を歴訪したライス米国務長官は、同月18日に来日、翌日の安倍首相との会談で、次のように語ったという。
 「今回の歴訪で最初に日本に来たのは、日米同盟がいかなる状況でも揺るぎなく、強いものであることを明確にさせるためである。また、アメリカが日本を防衛する決意を有しているのは、日本の安全保障が、アメリカの安全保障であるからだ」。
 ライス長官が、ことさらに「日米同盟の堅持」と、「日米安保体制維持の決意」を強調し、「核の傘の意義」を示唆したのは、単なる外交辞令ではなく、アメリカの率直な意向表明であろう。日本を米国の「核の傘」の内に留めておくために、日本が北朝鮮の核保有を、核武装に踏み切るきっかけと根拠にさせてはならない。──今、米国政府の日本への願いは、この一点に集中する。
 そして、日本の核武装を最も恐れている中国も、北朝鮮の核保有をその契機と口実にさせてはならないとの認識で、米国と一致する。韓国の盧武鉉大統領は、2002年暮れに当選を決めた直後にアメリカへ特使を送り、「北朝鮮の核武装は、日本向けだから心配していない」と、「太陽政策」継承への理解を求めたくらいだ。すでに、北朝鮮の核保有を想定していたのかも知れないが、いざ現実となると、日本の核武装に結びつくことを最も恐れている一人であろう。
 北朝鮮の核実験は、このような全く新しい状況を生んだ。ために、6者マイナス北朝鮮の5者の姿勢にも、急速に真剣さが加わってきた。まこと、核の「外交力」の強さだ。しかし、北朝鮮が核を持ったことを知った後も、あくまで交渉を中心に、その廃棄を求めて行く限り、北朝鮮は核武装をより高度化するための時間稼ぎに終始するだろう。実の伴った締め付けが不可欠だ。かつてヒトラーの暴走を、平和交渉で阻止しようと固執したあげく大戦を招いた例を、ゆめ忘れてはならない。(;)

核を考える(5)2006年11月20日 07:56

 核エネルギーと核兵器の両面で米国依存を脱け出せず、新興核保有国・北朝鮮に「アメリカの一州」呼ばわりされている日本は、いったいどうしたら、このみじめな状況を解消できるのか。
 それとも、アメリカ依存の屈辱など問題にせず、ひたすら経済上の安泰を求めていれば、国家・民族の誇りなど、どうでもいいのか。
 こうした国家存立の基盤に関わる論議は措くとして、身近に迫った北朝鮮の「核の脅威」に対処するには、少なくも「核防衛の論議」を尽くして当然だ。
 率直に言って北朝鮮は、同じ核ミサイルを持つ中国やロシアと違って、国際社会の一員としての行動上の責任とか人道の常識が、およそ通じない徹底した独裁国家である。それだけに、わが国としては最悪の事態を想定しておく必要がある。
 この際、提唱したいのは、「非核3原則」の第3項、核を「持ち込ませず」を、日本国として、はっきりと「持ち込ませる」と改め、国民の合意の下に内外に宣言することだ。
 もともと「持ち込ませず」原則には、決定的な矛盾がある。安保条約の下に、米国の核で安全を保障されているからには、有事の際、日本領内に核が持ち込めないのでは、安全保障の用をなさない。
 現実問題として、有事に備えて核を装備している米軍の艦艇や航空機が、日本の基地や領海に入る際、そのつど核兵器を取り除いてどこかに置いて来るなど、およそ非現実的だ。米国の核の傘に頼らざるをえない現実を認めるならば、傘の行使の自由を縛るのは全くの矛盾である。
 実は、政治家や国防当事者、識者やジャーナリストが、この現実をとっくに知っていて、敢えて口にしなかった。国家の指導的な立場にある者が、核の持つ政治性に触れることを恐れ、無責任と怯懦を分かち合ってきたのだ。
 今こそ、現実と真正面から向きあわねばならぬ。必要とあらば、いつでも米軍に核を持ち込ませる態勢にあることを宣明することが、多少なりとも暴挙への「抑止力」になる。
 国家・国民の安全を他国に頼ること自体、本来あってはならぬが、憲法をはじめ日本が抱えている種々の制約を勘案すれば、今、国民合意を急ぐべきは、まず「非核3原則」3項の変更だ。(;)

核を考える(6)2006年11月21日 07:56

 「有事」と呼ぶ事態が起きるか、起きないかを論ずることは、あまり意味がない。ただ、万が一であっても、「有事」となった場合、備えがあるか否かが国家・民族の存亡を決めることだけは、明らかに予測できる。
 そして、国家間の「信頼関係」や「平和志向」が、いかに高まってきたと認識されようとも、こうした「当為の幻影」を無邪気に「現実の不可不」と混同して「有事」に備えない者は、現実の国際政治を、責任をもって論じ、手がける資格はない。
 見てきたように、わが国は「当為の幻影」に惑わされて「平和憲法」と「非核3原則」にとらわれ、核攻撃に対して全く無防備な態勢をとり続けている。しかし、このシリーズを連載しているほんの1週間にも、以下のような出来事が続いた。核をめぐる、世界の現実は冷厳である。
 ◇パキスタンが、核弾頭を搭載できる中距離弾道ミサイル「ハトフ5」の発射実験に成功したと発表した(11月16日)。実験に立ち会ったアジズ首相は、「防衛能力を高めることが平和につながる」と語った。
 ◇米上院は、今年3月の米印首脳会談で約束された、米国からインドに対し核燃料や原子炉、関連技術の輸出を認める法案を、85対12の大差で可決した。下院は、すでに7月にこの法案を可決しているから、米国による「核拡散」はまた一歩進んだ(同16日)。米印の核協力は、「核拡散防止条約=NTP」加盟45カ国で組織される「NSG=Nuclear Suppliers Group」の了承を求めるというが、NTPに加盟していないインドに対して拘束力があるのやら。
 この間、私をさらに驚かせた情報は、◇1962年の「キューバ危機」の際、カストロ政権のソ連軍事顧問団の連隊長だった、ソ連邦最後の元帥ドミトリー・チモフェーエヴィチ・ヤゾフが、先ごろ83歳になったのを機に出版した回顧録で、「危機」の際、ソ連は現地に「戦術核」や「核地雷」も隠し持っており、ヤゾフは米軍が上陸したら使用する全権限を与えられていたと告白したことだ。世界はこの事実を、今日までを知らなかった。独裁国家相手の交渉は、狂犬相手と同じである。(;)