3円の徳育2005年04月07日 21:19

 狂牛病の拡大阻止のため、2001年10月18日から始まった全頭検査以前に解体された国産牛や輸入牛を政府が市場から買い上げて焼却処分にすることになったのに乗じて、無関係の国産牛まで買い取らせ、公金50億円余を騙し取った畜産業者たちの裁判が始まっている。公判で、農水省の外郭団体が、この詐欺行為を助けるかのように業者らに情報を流していた疑いが検察側から指摘されて、仰天は怒りに変わる。
 日本の戦後教育の欠陥の一つに、徳育の欠落がある。何も難しいことではない、殺すな、盗むな、むさぼるな、嘘をつくな、甘い毒を飲むな、の戒めを教えれば済む。
 このような訓育が家庭の躾のうちだったのは、核家族化する以前のことで、結局、団塊の世代以降は、徳育と縁遠いまま大人に育った。その子らの世代は、言うに及ばずである。かつては、先達が後進の過ちに厳しかった。それだけ、道徳面で自信のある人物が多かったのかもしれぬ。
 親友のYは、新聞記者を志していた学生時代に、某大新聞のOBで、大学の講師をしていたH先生に作文の添削を引き受けてもらった。
 原稿用紙に1テーマ3枚、週に2ないし3テーマを時事の問題から選んで書き上げて書簡を添え、7円切手を貼った返信用封筒も封入、開封にして7円切手を貼って先生に送った。当時、普通郵便は10円だったが、原稿などは開封で送れば7円で済んだ。コッペパン1個が25円、きつね蕎麦が1杯30円で、貧乏書生にとって3円の倹約は切実だった。
 ところが戻ってくる封書は、添削済みの原稿に講評の書簡が添えられ、3円の切手が追加して貼られ10円にしてある。重量超過のせいかと、H先生に恐る恐る尋ねてみた。
 すると、「君は、手紙を同封してくるでしょう。開封で割引きになるのは、原稿や印刷物であって、書簡が入っている限り通常の郵便物です。細かいことだけれど、きまりは、きまりだから」と言われ、顔から火の出る思いをした。
 規則を守れ、という教訓に留まらず、封筒に鋏を入れ「開封」と朱書すれば、中身を検められることはないだろうと高をくくった小ずるさを厳しくムチ打たれたと、Yは心底から恥じたという。(;)