ゲマールの貧2005年04月14日 08:04

 西欧において、公職にある者のウソが、いかに致命的であるか、また1つ恰好の例を作ったのが、フランスの経済・財政・産業相エルヴェ・ゲマール(44)の失脚=2月25日。
 スイスとの国境サヴォア県出身の秀才エルヴェは、フランス政官界の登竜門であるENA(国立行政学院)を出てトントン拍子に出世。シラク大統領の秘蔵っ子として、農業・食糧相から2004年11月末、将来の首相の通過点とされる最も忙しく栄誉ある経済・財政・産業相に就任したばかりだった。
 カトリック教徒で、妻クララとの間に8人の子がいるが、クララも対仏投資勧誘庁長官という高級官僚で、日本にも度々現れている。夫婦で約30万ユーロ(4000万円)近くの公務員給与を得ていたが、経済・財政・産業相として与えられた公邸は大家族に狭すぎるとして、家賃月額約195万円を国費で負担させ、シャンゼリゼ近くの民間アパルトマンを借り、血税208万円を注いで2フロアをぶち抜きに改造した600平方メートル(182坪)を豪奢な住まいとした。
 フランスも財政難。政府が国民に週35時間労働に弾力性を求め、公共支出削減を叫んでいる矢先、政官界の不祥事に厳しいことで定評のある週刊紙 『キャナール・アンシェーネ』 が、これをすっぱ抜いた。エルヴェは 「週120時間も働く激務で、住まいの件は妻に任せきりだった」 などと弁解したが、さすがに立場上窮して転居を表明、騒ぎはいったん治まったかに見えた。
 ところが、他紙の取材に対して「修繕もする貧しい靴屋の息子でなかったら、自前の住まいを持っていて、こんなことはしなかった」と語ったのがヤブヘビ。
 独自調査をした新聞が、カルティエ・ラタン界隈の高級アパルトマンをはじめ、国元の戸建て住宅2戸など数件の不動産を持ち、仲間の官僚に「無償で貸している」と述べたアパルトマンからも高額な家賃を取り、しかもその官僚は9人の子持ちであることなどが、洗いざらいバレてしまう。
 結局、末は首相・大統領の夢破れて辞任、中央政界を去った。最近、パリの税務署から彼の税務申告書が消えたり、まだ続編がありそうだが、ゲマールの貧しさは、ほかならぬ心の貧しさだった。それにしても、週120時間働き8人の子とは。(;)