威令行われず2006年01月25日 08:06

 昨年12月、対米関係、加えて小泉─ブッシュの個人的友情を慮って、2年ぶりに解禁された米国産牛肉の輸入だったが、思わぬボロが出て、わずか1ヵ月で再び輸入禁止となった。
 米から届いた牛肉に、なんと、危険部位として除かれる約束になっていた「背骨」が付いたままのものが見つかった。しかも、米の輸出業者も、立ち会った検査官も、その約束を承知していなかったという。
 もともと、この解禁には無理があった。問題は食の安全であり、まかり間違えば国民に死に至る「毒」を食う機会を与える政治判断だった。
 国家が国民を死の危険にさらすことは、その確率がいかに低かろうと、犯罪である。それが、論理的・科学的に解っているのに、小泉政府は食の安全を、高くくりの「確率論」で処理し、米との貿易・防衛関係を優先させた。言語同断である。
 そのアメリカの食肉処理には、極めて重大な懸念が、つとに指摘されていた。日本側が求めた「20月齢以下の牛」の選別自体、現地の飼育実態からして保障は困難と見られていた。
 殺処理場に、獣医師の資格がある検査官がいなかったり、BSE罹患の確立が高くなる30月齢以上の牛を処理した同じ鋸などから、消毒不全で病原体のプリオンに汚染する危険も指摘されていた。
 責めるべきは政府だけではなかった。食品安全委員会は、「食用牛の選別・危険部位の除去・厳密な検査が、日本国内の基準並みに保証されれば、米産牛から変異形クロイツフェルト・ヤコブ病(vCJD)が発生する確率は、日本の場合と同じ水準になる」という、非の打ちどころのない"遁辞"を弄して責任逃れをした。
 政府が、解禁という結論にお墨付きを要求しているのは分かっていたのだから、全員辞任して、専門家としての責任を果たせばよかったのだ。外食産業界の一部にも、同胞の死の危険より、自らの利益を優先させる"ならず者"のような人物がいる。
 何より、政府が国際的に約束した「食肉牛処理方法」を、末端の検査官や業者が承知していない米国の現状に、ブッシュ大統領の威信低下が表れている。任期は3年を残すが、数々の失政の報いで、国民の離反は急速に進んでいる。もう、この政権との約束は慎んだ方がよかろう。(;)