不払いの品性2006年01月13日 08:09

 大新聞の高名な編集委員で、「オレは、ただの一度もNHKの受信料を払ったことがない」と、自慢する男がいた。それでいて、NHKテレビの番組は舐めるように見ていた。通勤電車内での情報収集も、もっぱらラジオのNHKニュースで、論評を文字にもした。それも、けなすより褒めることが多かった。私は、この男の品性のなさが、たまらなくいやだった。
 放送番組は、無体の商品だ。受信機さえあれば、簡単に盗める。受信している者が、対価を払っているか、いないかを、確かめるのも難しい。これが、新聞や雑紙、書籍となると、論評までするには買って手に取り読むしかない。本屋で立ち読みでは、これも品性に欠ける。
 一昨年秋からの不祥事頻発以来、NHKの受信料不払いが急に増えた。不祥事の悪質さ、海老沢前会長の責任の取り方や、未練がましいと映った辞め方もたたって不払いは急増し、昨年末には約130万件に達して、ほぼ頭打ちになったようだ。大新聞各紙は、傘下に抱える民放がNHKの好番組に命綱の視聴率を食われて苦戦しているためか、NHKが公表する受信料不払い件数を、ここを先途とつぶさに報じたのも、この動きに拍車をかけた。
 NHKの受信料は、テレビ受信機を持つ世帯の「義務」として支払われることが、放送法で定められている。公共放送を、国民の分担で維持・発展させて行く「協力費」としての性格があり、不払いへの罰則はない。屋根にテレビ・アンテナが取り付けてあっても、「NHKは見ていない」と言う世帯からは徴収できない。だから、今回急増した不払い組などを含め、全世帯のほぼ3分の1が受信料を払っていない。NHKにとっては、経営基盤を脅かす深刻な情況だ。
 こうした背景から、民営化論議とからんで、(1)受信料の税金化、(2)電波暗号化システムの導入による契約受信化、(3)完全民営化してCM依存に変身、といった改革案が登場しているが、どれにも短所がある。NHKは新年から受信料支払いの呼び掛けを強化しているが、ただ酒、ただ乗り、ただ読みと同様に、ただ受信で品性を疑われることだけは、お互い避けたいものだ。(;)

コメント

_ とんこう ― 2006年01月13日 10:21

竹庵様のこのコラムは、無料で読めるのですが、この場合はどうなるので
しょうか。執筆料などは、どこから出ているのですか。
私の場合、パソコンを購入した、プロバイダに加入した、電話回線を使って
いる、この三つにお金が掛かっています。
儲かるのは、パソコンメーカー、プロバイダ、電話会社な訳です。
只読みが、私の利益にはなっても、竹庵様の労力の対価にはならないのでは?

_ とんこう ― 2006年01月13日 10:36

図書館に行くと新聞が只で読めるのですが、この場合は、税金を払って
いるから、ということでしょうか。
受診料ではなくて、受信料ですよね。

_ Luke ― 2006年01月13日 17:34

竹庵さま、
受信料の不払いとは違うのですが、昔、会社にこんな人がいたのを思い出しました。

珈琲会と称して、有志でお金を出し合ってサーバとコーヒーを買い、ドリップ・コーヒーを煎れて飲んでおりました。そのうち、会員でもないのに勝手に飲んでいる人がいると職場で話題になりました。誰かがそれとなく本人に聞いたところ、「俺は奴らの上司なのだから、上司にコーヒーを煎れるくらい当然だろう、だから会費などは払わない」と宣ったそうです。

_ 竹庵(とんこう様へ) ― 2006年01月13日 17:56

 とんこう様。すみません。「受診料」は変換ミスでした。このコラムを、ただでご覧になれるのは、プロヴァイダーのサービスです。 

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年01月13日 18:06

 Luke様。酷い人物がいたものですね。本当は、ご本人も「珈琲会」に誘って欲しかったのかも知れませんが。こういう暴言を吐く人物を、管理職に据える組織もおかしい。実際、品性って大事ですよね。上に立つ者を選ぶ時は、品性を4分、仕事によっては6分は見ていいんじゃないでしょうか。

_ Luke ― 2006年01月13日 23:45

竹庵さま、

件の上司は、家で仕事をするために、職場の電動タイプライターを無断で持ち帰ってしまい、当時、コレクション機能の付いたIBMのタイプライターは貴重品でしたから、「タイプライターが無いと!」と職場をパニックに陥らせたこともありました。

逆の例では、時々ポケットマネーで茶菓子を買い、茶話会を開いて、職場の和を大切にする上司もおりました。この違いはどこから来るのか、やはり品性の問題でしょうか。

_ Luke ― 2006年01月14日 00:24

竹庵さま、
夕刊にNHK会長の談話として、「不払いに罰則は報道機関の性格にそぐわない」とあり、また、民営化や暗号化などの議論に「NHKは情報格差を作らず、情報弱者を作らない」と、竹庵さまのブログを会長はご覧になったかのようでしたね。

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年01月14日 08:48

 Luke様。橋本会長は、当たり前のことを言っただけでしょう。市場原理をマス・メディアに適用するのは、医療も教育も芸術も宗教も「ビジネス」だと考える思想からでしょうが、それ自体が間違っています。
 そんな、人類の精神史を無視した野蛮な考えが適用されそうになるのも、カネでは購えない心の面を重んずべき、こうした事業の実態が「ビジネス」に酷似してしまったからだと、私は思い嘆いています。
 本来、人間社会を高みへ誘うべき事業が、報道より娯楽、仁術より算術、公の全人教育より技能の塾、高尚さを求める文化より低俗なショウ、魂の救済より寄進、となってしまっては、愚かな政治家が、どれもこれも税収の対象に考え、投資や経済効果の材料とみなすのは必定です。
 しかし、間違いは間違いであって、その間違いを正し、本来の姿へ淘汰するのは、まず、こうした事業に従事する人々の私心を捨てた努力と、それを厳しく評価し取捨する国民でしかありません。
 ただ残念ながら、メディアも加わった愚民化が恐るべき勢いで進み、この国は取り返しのつかない「不可逆点」へ突き進んでいるように見えます。

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