民放連の姿勢2006年01月17日 08:21

 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)は、暮れの12月22日、NHKの受信料制度の見直しを、2006年度の早い時期に出すことを提唱した答申を首相に提出した。小泉首相の任期を意識してのことだろうが、せっかちな話だ。
 一方、12月15日、自民党本部で開かれた、同党の通信・放送産業高度化小委員会(小委員長・片山虎之助同党参院幹事長)に招かれた民放連の日枝久会長(フジテレビ会長)は、「NHKと民放による二元体制が崩れないようにすることが大事だ。NHKの経営基盤を強化してほしい」と述べたという。CM収入依存の民放、受信料のNHKの、棲み分け維持論だ。
 またこの日、同じ小委員会で意見を述べた橋本元一NHK会長は、NHK民営化論者が"突破口"として主張している「BS放送の暗号化=スクランブル化」に触れ、「この方式を採用すると、(暗号解読機を有料で持つ特定視聴者だけが受信できることになり)、NHKの公共放送としての性格が変わってしまう」と、反対の意向を明らかにしている。
 在京各紙によると、日枝会長は委員会での意見陳述後、記者団に「BSスクランブルが導入されると、NHKを含めて全ての局が視聴率競争に突入して、番組の多様性が失われる」と、民放側の懸念も語っている。2人の発言から窺える通り、単純なNHK民営化や、BSスクランブルの導入には、当のNHKはもとより、民放の側も「非現実的」と、反対の共同歩調を示したわけだ。
 一方、2005年11月3日の「雑記」で紹介した、自民有志議員の「NHKの民営化を考える会」の中にも、「視聴者の信頼の点では、民放よりNHKが上位にある。NHKを民営化すれば、NHKを巻き込んだ視聴率競争に至るのは必定で、そうなればテレビ放送の信頼性は保てなくなる」との慎重論が出ている。大所高所からの卓見と言うべきであろう。
 もっとも、民放のNHK民営化反対論の陰には、経営を支えるCM収入が、景気回復基調の中でさえ、全体で年に4~5%しか伸びておらず、多チャンネル化の中で、この食い合いをさらに激化させたくない本音が覗く。(;)

コメント

_ Luke ― 2006年01月17日 17:18

竹庵さま、

幾分、寒さの和らぐ日が続きましたが、いかがお過ごしでしょうか。

さて、今朝届いた週刊nikkeibp(メールマガジン)の、「テレビCMの限界が見え始めた」に、「2005年、北米で日本車が史上空前の売れ行きを示したが、トヨタは北米でいちばん売れた車種のテレビCMを、一切打たなかったらしい、ということで、日本で自動車メーカー各社がそれをやったら、民放はたいへんなことになってしまう、という心配から民放各社が不安を抱えている」という坂本 衛(まさる)さんの記事が目に付きました。

テレビCMの役割は、そろそろ終わろうとしているのでしょうか。

竹庵さまご指摘のように、新聞・放送・通信の境界が曖昧になり始めて、メディアの大変革が間近に迫っているのかも知れません。

_ たまどん ― 2006年01月17日 19:05

Googleなどを使って目的のもののカタログスペックは検索ができます。そのカタログスペックを理解するためには、購入予定のユーザー側も基本的な知識が必要となりますが、そうした情報の受け手の側の学習も、実は必要な時代になりつつあるのでしょう。

いま、テレビ番組はHDD録画が普通になっていて、その録画機にはCMを自動検出してスキップする機能も搭載されています。そうした機器でCMを除外してテレビ番組を見ると、実に何とも民放の番組の中身の薄さは・・・。

_ 竹庵(Luke様へ) ― 2006年01月18日 09:02

 Luke様。寒い日が続きますね。小庵の防寒具は、温度調節のできる電気膝掛けとキルティングの長コート、それにイイヤー・マフです。空調機もあるのですが、空気は冷たい方が好きなので、一冬中、暖房機としては使ったことがありません。昔、貧乏書生だったころは、湯たんぽか行火(あんか)と毛布でした。行火なんて、ご存知の方は、もう少ないでしょうね。
 坂本 衛氏のレポートは、読んでみたいですね。いい品物は広告をしなくても売れて行くことがありますが、トヨタはテレビ・メディアを見限ったのでしょうか。メカニズムを売りの目玉にする商品が、informative ad (説明重視の広告)に向かう傾向はあります。
 最近、Canonがモナリザの絵を使ったり、黒豹の斑を見せたりして、技術の優秀さを訴えるディジカメの広告で評判を取りましたが、こうした種類の広告展開は、テレビCMには不向きで、印刷メディアが選ばれるように思えます。車なんかの広告も、もっと informative になっていいはずです。テレビは、やはり感性に訴えるメディアですから。
 

_ 竹庵(たまどん様へ) ― 2006年01月18日 09:29

 たまどん様。売り手と買い手の関係では、欧米でも伝統的に2つの対照的な考えがあるようです。1つは、中世以来の西欧の思想で「買い手危険負担」というもの。買ったものが壊れても、インチキであっても、その責任は買い手にもある、という考え。
 もう1つは、売り手より買い手の基本権を重視する「消費者保護」「フェアー・ビジネス」の思想。──こちらは、プロテウタンティズムと絡んで、英独など欧州で近代に発展し、わが国の「消費者保護基本法」にもつながっています。
 メカニカルな商品が極端に増えた現代では、買い手の側が、買うものについて深い知識を持つことが求められますが、売り手にも、こうした商品についての、より分かりやすい説明の努力が、ますます必要な時代です。
 しかし、現状は理想にほど遠く、買い手が買った商品を使いこなせずにいることが多すぎるように思えます。PCなども、そのいい例です。

_ 竹庵(訂正) ― 2006年01月18日 09:34

「竹庵(たまどん様へ) ― 2006-01-18T09:29:08+09:00」の第2段落、「プロテウタンティズム」は「プロテスタンティズム」の誤記(ミス・タッチ)です。訂正します。

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